第3回SSH講演会 & 第2回SSH身近なテクノロジー「携帯電話のための無線通信と信号処理の技術」
11月4日の第3回SSH講演会では,「無線通信」と「信号処理の技術」の2つの講演がありました。
まずは無線通信についての講演を東北大学工学部の澤谷邦男先生にしていただきました。では,講演していただいたことを少し紹介したいと思います。
電磁石や電磁誘導の法則,変位電流などの考えから通信技術は発達し始めました。そして,ヘルツやマルコーニらの実験によって,今のアンテナの基盤が作られました。アンテナ,無線通信というと周波数がどうとか聞いたことがあるかと思います。
周波数とは1/(周期)で求められ,単位はHzです。周期とは電界の波と波の間隔のことです。また,周波数によって波長も決まり,周波数が小さいほど波長は長くなります。この電磁波の周波数によって様々な用途がされています。例えば,周波数が大きいものはラジオやテレビなどで使われていて,小さいものはX線などで使われています。携帯電話の通信では,主に2GHz帯が使われています。
携帯電話等通信機器で情報を送るためには変調(振幅,周波数,位相を変化させる)が必要です。また,高速の通信を行うためには,広い周波数帯域幅が必要です。そして,周波数は有限なので,多数の人が同時に通信できるシステムを作るためにはこれを支える技術が必要です。携帯電話ではサービスエリアをセルに分割することで解決しています。
都市内の電波伝搬では基地局からの電波が直接波,反射波,大地反射波,回折波となって送られてくるため,場所によって受信強度が大きく変化します(フェージング)。フェージング対策としてダイバーシティ受信という技術が用いられているため,携帯電話の多くはアンテナを二つ設けています。こういった技術が積み重なって,今の通信技術に達したというお話でした。
次に信号処理の技術についての講演を東北大学工学部の川又政征先生にしていただきました。携帯電話で通話中に入ってしまう雑音をいかに取り除くかという内容で,計算によって取り除くことができるいう話でした。計算といっても,足し算や平均を求めるなど簡単な計算がほとんどです。この様な,計算機を使って音や画像をきれいにする計算方法をディジタル信号処理といいます。ディジタル信号処理を行えば,音声と一緒にはいってしまった雑音を取り除くことはできますが,本来の音質を変えてしまうという副作用をなんとかすることが今後の課題だそうです。
講演会の後,第2回SSH身近なテクノロジーとして,携帯電話の分解実習を行いました。参加した生徒は興味津々で,分解を進めていました。中から基盤やモーターや液晶などが出てくると,大学院生の皆さんがとても親切にそれぞれの部品について,解説してくださいました。とても複雑で,分解するのは大変でしたが,滅多に見られない携帯電話の内部の構造について知ることが出来ました。大変,貴重な体験をさせていただきました。
第2回理数科講演会
10月20日に,第2回理数科講演会がありました。今回の講演会では身近でもたくさん使われている触媒化学についてのお話を講師である白井誠之先生にしていただきました。講演会では,理数科の1,2年生が集中して話を聞きながらメモをとっている人が多かったようです。(化学の授業を受けていない1年生には少し難しい内容だったかも知れません。)
ところで皆さんは,触媒についてどれくらい知っているでしょうか。触媒とは,多くの時間やエネルギーを必要とする化学反応をより短時間かつ省エネルギーに進行させることができたり,目的とする反応を同時に起こる複数の反応から選択することができるといった,特殊な性質をもつ物質です。この化学反応は身近な所でも既に使われています。例えば,車には排気ガスの中の有害物質を分解するために白金触媒が使われているそうです。他にも石油製品や医薬品など生活に必要なものをつくるときにも触媒が活躍していて,今年度のノーベル化学賞も,触媒に関係しているとのことでした。触媒は産業や環境や医療で役立つとても素晴らしい技術だと思いました。
では,なぜ触媒にはこの様な性質があるのでしょうか。例えば白金触媒では,表面の原子が動いて並びかたが変わることによってこの様な性質が生まれているのだそうです。個体の表面の原子の並びかたが変わると言うのはとても興味深いことだと思いました。
講師の白井先生は独立行政法人産業技術総合研究所に勤めていらっしゃいますが,この研究所では他にも環境に役立つ研究をしているそうです。それは,超臨界状態に関する研究です。超臨界状態とは,固体,液体,気体のどの状態にも属さない状態で,強い分解性をもっています。水や二酸化炭素もこの状態をとらせることができ,安全な物質を使って容易にプラスチックなどの分解ができるため,環境にあまり負荷をかけずに廃棄物をリサイクルをすることが可能だということです。
講演会で,身近であまり知らなかった技術や最先端の研究に関する貴重な話を聞くことができて,化学に関する興味が広がりました。今後に生かしていきたいと思います。
エアコン(2)
今回は,現在も最もポピュラーな冷房器具の一つである扇風機と比べてのエアコンの利点と問題点についてお伝えします。
一長一短?扇風機とエアコン,それぞれの利点と問題点
前回のコラムではエアコンの冷暖房の仕組みについて紹介しました。今回,扇風機とエアコンの利点と問題点を比べる前に,まず扇風機は何故冷却効果があるのかを説明します。扇風機の風に当たると涼しくなるというのは皆さんもお分かりのはずですが,これにも明確な理由があるんです。
扇風機で涼しく感じる理由。それは「扇風機の風が体に当たることで,体表上の水分が気化して熱が奪われる為」なのです。
汗をたくさんかいた後,その汗を拭かないでしばらくしたら体が冷えて寒くなった。そんな経験をした事はないでしょうか。前回のコラムでもお伝えしましたが,水分は蒸発する際に熱(気化熱)を奪う性質があるので,汗がひく事で体の熱が奪われるのです。つまり,扇風機の風を体に当てる事が汗等水分の蒸発を誘発させるため,涼しく感じるというわけです。しかしこの冷却方法には弱点があります。空気中の湿度が極めて高い場合は,風が当たっても中々水分の蒸発が起こらず,湿った空気を体に浴びて,涼しくならずにむしろ不快になってしまう事もあります。
これに対してエアコンは,部屋の中の熱を外に逃がし,部屋の中の空気自体を冷やす事で私達を涼しくしています。熱エネルギーは温度が高い所から低い所へ向かう為,体温より室温が低い場合,エアコンの冷房で涼しくなるのは当然と言えます。この冷却方法はあまり湿度に影響されない為,扇風機で発生するような問題も起こりません。さらに最近のエアコンには不快感の原因となる湿度を断つ吸湿機能が付いています。
こうしてみると,エアコンの方が扇風機より優れているように思えますが,エアコンにもいくつか欠点があります。
一つ目は,扇風機と比べて大量の電力を消費する事。本来熱は温度の高い所から低い所へ向かって移動するので,冷房によりその逆を行うという事は,より多くの仕事をしなければならないという事です。仕事をするにはエネルギーが必要です。よって多大な電力が必要だという事が分かります。それに対し扇風機は羽根を回して空気をかき混ぜるだけなので,そこまで多くのエネルギーは要らない為,少ない電力で使用する事ができるのです。
二つ目は,冷房の利用が環境に影響を及ぼす事。多くの電力を消費するエアコンは,運転と同時に大量の熱を発生します。冷房によって屋外に放出された熱エネルギーと排熱が外気を温めるので,結果として屋外の気温は上がる事になります。これが地球温暖化の一因となると考えられています。(火力発電の際発生する二酸化炭素も地球温暖化の原因の一つという説もあり,大量の電気を消費するエアコンを使う事が二酸化炭素による地球温暖化を助長させる可能性もあります。)
また,今は使われていませんが,昔エアコンの冷媒に使われていたフロンガスは,オゾン層の破壊の原因になっていました。
エアコンと扇風機,それぞれの長所と短所のまとめ
エアコンは,安定した冷却効果が期待できるが,多量の電力を消費する上,地球環境に優しいとは言い難い。
扇風機は,使用する状況により冷却効果にばらつきがあり,全く効果がない時もあるが,比較的電力の消費が少なく,エアコンと比べると非常に地球環境に優しい。
このように,エアコンと扇風機には,それぞれ違った長所と短所があります。扇風機はエアコン程涼しくならないとお考えの人もいるかと思いますが,扇風機も上手く利用すれば大きな効果があります。今年はもう扇風機を使う機会はないでしょうが,来年は,省エネの意味も込めて,扇風機を使う機会を増やすのはいかがでしょうか。
参考文献
暑い夏、扇風機にあたるとなぜ涼しいのか?
http://nkiso.u-tokai.ac.jp/phys/matsuura/lecture/heat/contents/coolfun.htm
科学イベント紹介
<東北大学サイエンスカフェ>
11月26日(金)
インターネットの真の姿に迫る!
~情報通信ネットワークの最前線~
12月4日(土)
光で脳と対話する
http://cafe.tohoku.ac.jp/event/index.html
<仙台市科学館>
11月27日(土),28日(日)
第21回宮城県児童生徒コンピュータ・ソフトウェア作品展
12月11(土),12(日)
第13回「エネルギー利用」技術作品コンテスト
http://www.kagakukan.sendai-c.ed.jp/event/index.html